バイエルン州も最南端、ドイツアルプスの北麓にある村。オーストリアとの国境にも近く、冬は美しい銀世界につつまれてメルヘンの世界を作り出す。そんな雪に埋もれた村に温かみをもたらそうと、多くの家々に描かれたフレスコ画がたいへん美しく、この村の異色の雰囲気を作り出している。
そして、この村を何より有名にしたのが、1634年から10年に一度、村人達の手により上演されるキリスト受難劇。
小さな村ながらも独特の雰囲気が流れる魅力的な村である。
この町が有名になるきっかけとなったのは、1633年のペスト大流行の年。前年の1632年からドイツを襲ったペストだが、ここオーバーアマガウでの被害が少なかったことから、その感謝の意をこめて1634年より村人達の手でキリスト受難劇が始められた。つまり、オーバーアマガウの歴史は、パッションシアターで開催される10年ごとのこのキリスト受難劇と共に流れてきたとも言える。
また、この町は木製のおもちゃや木彫りが特産という点では非常に歴史が古く、キリスト受難劇が始まる3世紀も前の15世紀にまで遡る。
オーバーアマガウの歴史は、常にそこに住む村人達の手によって作られていったとも言える。
Data
帰属連邦州 | バイエルン州 |
人口 | 5,290人(2007年) |
有名なお祭り | キリスト受難劇(2010年5〜10月) |
特産品 | 木彫り工芸品 |
近郊の観光スポット | リンダーホーフ城 |
エッタール修道院 | |
郵便番号 | 82487 |
おすすめ度 | ☆☆☆☆☆ |
キャッチフレーズ | 雪のメルヘン村 |
公式サイト | www.oberammergau.de |
Map
ドイツも最南端に位置し、オーストリアとの国境にもなっているドイツアルプス北麓にある。名前の由来ともなっているアマー川(Ammer)上流(oberとはドイツ語で"上流")にある。ちなみに、すぐ下流にはウンターアマガウ(unterとはドイツ語で"下流")という村もある。
Access
■ ミュンヘンからRBで約1時間50分
(ムルナウ経由)
■ ミッテンヴァルトからRBとバスで約1時間
(オーバラウでバスに乗換)
■ ガルミッシュ・パルテンキルヒェンからバスで約40分
■ フュッセンからバスで約1時間25分
(エヒェルスバッハーブリュッケで乗換)
バイエルンチケットを使用すれば、週末と平日9時以降は、普通電車(RE/RB)とバスであれば、5人まで有効で28ユーロで乗り放題ですので大変お得です!1人でも20ユーロです。
ドイツ最南端の町、ミッテンヴァルト。雪化粧という最も綺麗な衣を纏ったドイツアルプスの谷間を縫って、ゴトンゴトン・・・とゆっくりと列車が進む。車窓から眺める寒々しい景色・・・真っ白な連峰をバックにして、辺境の村の煙突から立ち上る煙は、まるで家々が白い息を吐いているかのように見える。でも、その煙突の下では、きっと温かな家庭があるんだろうな・・・なんだかとても微笑ましい情景。
ふわっとした針葉樹林、雪をかぶった木々に反射する光に思わず目をつむる。村を過ぎれば、樹の家族、また集落が訪れては、木々の間を通り過ぎる。人の作った家が、こんなにも自然に調和している姿・・・なかなか見られないんじゃないかな。大都市ではエコだエコだって騒いでいるけど、まだそんなこと気にしなくてよかった時代の景色が、ここには流れているように思える。
「これから向かうオーバーアマガウはどんな町かな・・・。この心が温まるような景色が続いていればいいな・・・。」
ゆっくり流れる時間。そんな時間に電車も眠くなったのかな・・・。ちょっと一息つくか・・・って感じに、列車が山あいの町の小さな駅で足を止めた。
ざくざく・・と雪を踏みしめる音だけが聞こえる。この駅で降りたのは、僕と腰の曲がった老夫婦とフードをかぶったおばちゃん1人。オーバーアマガウへは、この駅でバスに乗り換えて、あの山の向こうへうねりながら続いている山道を越えなくてはならないのだ。小さな駅ながらも、駅舎をぐるりと回った向こう側に出ると、立派な2車線の道路が左右に走っているのが目に入った。茶色の道がよかった。でも、そこにあるのはもちろん灰色の道だった。
すっかり自然界にとけこんでしまっていた僕の心だったけど、人間界にはふっと一瞬で戻ってしまう。やっぱり雪に埋もれたこんな山の麓でも、時代は現代なんだな・・・って、なんだかちょっと寂しくなった。もう少し、白く染まった森の木々たちと語り合う時間がほしかったな・・・って思った。
・・・・・・バスが通り過ぎていった。・・・アホやらかしてしまった。自然の余韻に浸っていた僕には、反対車線で待っていたオーバーアマガウ行きのバスなんて目に入らなかったのだ。
「うわ、最悪・・・」
あわててももはや遅い。バスのお尻がどんどん遠ざかってゆく。「待っててやったのに、なんだい今さら」って、ちょっと怒ったようなバスの後姿に凹む僕。こんなところに放り出されてしまった自分。いくら自然に心を打たれても、やっぱり人間界に頼らずには何もできないんだよな・・・って、バスの通うこの山あいの町にちょっと感謝した。
・・・・・・
40分後・・・待ちくたびれた僕にやっとお迎えがやってきてくれた。もう、「バス〜」って飛びつきたいくら・・・いや、やめとけ。とにかくそりゃもう嬉しくて嬉しくて、バスが来るなり抱きつくように飛び乗った。
ようやく山を越えられる・・・幸い、路上にはもうほとんど雪は残っていなかった。左右に揺れる車内に若干気持ち悪くもなったものの、我が愛しのバスは何事もなく峠を越え、この銀の森を抜けた先にあるであろう、フレスコ画の美しく描かれたオーバーアマガウの村へと繋がる下り坂をせっせと下りていった。
・・・・・・Unterammergau(ウンターアマガウ)。もうギャグかこれは。
「オーバーアマガウって言ったか?!」初めての土地なのに、放送がない、もしくはバス停に地名が入ってないって本当ありえない。郵便局の前にあるはずのオーバーアマガウのバス停、そこで降りるはずだったのに、放送もなく、電光板もなく、地名すら確認できなかったので、次の駅のウンターアマガウまで行ってしまったのだ。
「もう、最悪・・・」
こうして、2度ものアホなるバス待ちを経て、ようやく文字通り待ちに待ったオーバーアマガウに辿り着いた。
レールの上で遊んでいても、余裕で列車が止まってくれそうな、そんなすごい辺鄙な鉄道駅。そのすぐ近くに郵便局とバス停がある。そして、一直線に伸びる道路を右へ行けば、さっき何故か行ってしまったウンターアマガウ、左へ行けばオーバーアマガウ市街地へと入っていく。
右手には壁のように聳えるアルプスの山々。路端で汚れた雪がちょっと残念だけど、この山奥の村にはやっぱり冬景色が似合う。そうして辺りを眺めながら歩いていくうちに、ぱっと明るい光景が目に入ってきた。
壁に見事に描かれたやさしい色彩・・・僕は、いつの間にかこの村の象徴であるフレスコ画たちに挟まれていた。道の両脇に連なる家々の窓には特産品の木彫りが飾られ、その窓枠を明るく彩るフレスコ画だったり、壁いっぱいに塗られた宗教画などが村全体をやさしく描き出している。寒い冬に凍えそうな人々を温めるために描かれていったというこのフレスコ画は、そこを通る観光客や村人だけでなく、人里離れた山奥にぽつんとあるこの村そのものを明るく温かい村へと変えていた。
受難劇年でもないこの冬の一日に訪れる旅行客は少なかったが、この村のフレスコ画の本当の姿っていうのは、やはり厳しい冬の寒さがあってこそ更にその魅力が増すんじゃないかなって思った。そして、この日に、留学最後の旅行として訪れることができて本当によかったなって感じた。でも、欲をいうなら・・・真っ白い雪のじゅうたんの上に、真っ白い雪のフードをかぶった家々が見たかったな・・・
オーバーアマガウは、人間が描いたフレスコ画で彩られた村。でも、ドイツアルプスの谷間にあって、その自然美と人間の描き出した美が見事に調和した素晴らしい村だった。
この日は自然界と人間界の狭間でふらりふらりと心が揺れ動く日だったが、綺麗に融和したその2つの素晴らしさを見せてくれたオーバーアマガウこそが最も忘れられない情景となった。心に刻まれる、本当に美しい世界だった。
何か今回は前置きが長すぎた気がしますが・・・「ミッテンヴァルトからオーバーアマガウまでのアルプスの旅」みたいな感じになってしまいました。でも、オーバーアマガウの美しさは、旅行記の最後で書かせていただいている通り、自然と一体化した美しさにあると思います。人が描いた画がなぜこんなに調和しているんだろうって思うくらい違和感なく心に入ってきます。
この町の観光スポットは少ないかもしれませんが、アルプス(アルペン)の中の芸術の村って思うと、村そのものがすごく魅力的に見えてきますよ。
また、オーバーアマガウの産業はほとんど木彫りなどや観光で成り立っています。ですから、観光をしていてもお土産を売る店が軒を連ねていて、すごく楽しみながら散策できるはずです。必見の村ですよ!
オーバーアマガウの有名なところは、10年に1度開催されるキリスト受難劇、そして家々に綺麗に描かれたフレスコ画の2点です。受難劇の開催年に訪れるという方はもちろん必見ですが、そうでない方でも、フレスコ画の描かれた町並みを散策すること自体がたいへん印象に残ると思います。特に雪が降り積もったオーバーアマガウは雰囲気が出ていて綺麗です(今回は雪解けが進んでいましたが・・・)。
また、オーバーアマガウとセットにされることが多いのが、リンダーホーフ城です。ルートヴィヒ2世の隠れ家といわれた、この豪華な宮殿も非常に有名な観光スポットです。
パッションシアター | 10年に1度行われるキリスト受難劇の舞台となる劇場です。駅から市街地に入った左手の方にあります。10年後との開催時期以外は、受難劇の歴史や、住民達が劇で身につけるコスチュームなどが展示されているのを見ることができます。また、定期的にオペラなどが催されています。 |
フレスコ画の町並み | この村全体の雰囲気を作り出している家々のフレスコ画ですが、宗教画やグリム童話の一場面、あるいは華やかさを演出するだけに描かれたものなど様々なものがあります。元来、冬の厳しいオーバーアマガウに訪れた旅人達の心を温めるために描かれたといわれており、華やかさの中にも温かみのある色彩が印象に残ります。中でも特に有名なのは、市街地から少し離れた所にある赤ずきんちゃんの家です。他にも7匹の子ヤギや、ヘンゼルとグレーテルなど、グリム童話を題材にしたフレスコ画が描かれた家もあります。「グリム童話の画探し」を目的に散策するのも面白いかもしれません。 |
聖ペーター&ポール教会 | 町のほぼ中心に位置し、タマネギ型の小さなドームをもつ町の主教会です。12世紀に建造された後、現在の姿となったのは18世紀のこと。内部は、黄金の装飾やピンク色を基調としたフレスコ画が描かれるなど、ロココ調の絢爛豪華な美しさが目を見張ります。 |
リンダーホーフ城 | かのノイシュヴァンシュタイン城を建てたことで有名なバイエルン王、ルートヴィヒ2世の隠れ家と呼ばれる宮殿です。オーバーアマガウからはバスで約20分という近さにありますので、町とセットで訪れることをお勧めします。 この城は1870年〜1878年にかけてヴェルサイユ宮殿のトリアノン宮をヒントにして造られましたが、王の独創的な美意識も調和する形で飾り立てられています。内部はロココ調の金ピカの豪華さ、宮の正面には30メートルも吹き上がる噴水なども設けられています。また、料理をのせたテーブルが階下から上昇してくるという魔法のテーブルや、108本のローソクが灯されるシャンデリア、ワーグナーのオペラ「タンホイザー」の場面を再現しようと造られたヴィーナスの洞窟など、見所も満載となっています。 |
キリスト受難劇 | 歴史の紹介でご説明したとおり、1634年から10年おきに村人達の手により演じられる劇です。上演の年には、総勢2000人を超えるというこの受難劇を見に、世界中から50万人以上の観客が詰めかけます。5月から10月にかけて開催されるために、ドイツに旅行に行くには少し値段が高いと思いますが、ミュンヘンのオクトーバーフェスト(9月半ば〜10月上旬)と時期を合わせていくといいと思いますよ。次回開催は2010年です! |
ドイツといえば中世の町並みというのがまず浮かぶかもしれませんが、こんなメルヘンもあるんだって思わせてくれる素敵な村です。「山の中で、美しい辺境の村を発見した」っていう嬉しい気分にさせてくれる愛らしい村です。
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