旧東ドイツ、ザクセン=アンハルト州にあり、1000年以上の歴史を歩んできた古都。旧市街には戦災を免れた1200軒の美しい木組みの家々が見事に連なり、その町並みは世界遺産に登録されている。そして、そんな旧市街を、丘の上からは皇帝の築いたクヴェトリンブルク城と聖ゼルヴァティウス教会が見下ろす。
また、魔女伝説で有名なハルツ山地の東の麓に位置し、美しい中にも老朽化した建造物がこの町独特の雰囲気を醸し出している。
922年、ザクセン朝ドイツ王国の初代国王、ハインリヒ1世(ハインリヒ捕鳥王)によって城が築かれ、ドイツ発祥の地とも称される。この城は936年には彼の息子である神聖ローマ帝国初代皇帝オットー1世によって皇帝宮殿にまで拡張される。
1426年にはハンザ同盟に加盟、1440年には自由の象徴であるローラント像も置かれ、全盛期を迎えることとなる。その一方で1593年には魔女とされた133人が焼き殺されるなどの歴史も併せ持つ。
17世紀の30年戦争を境に荒廃するが、現在では世界大戦の戦災を免れた1200軒以上の建物が並ぶ世界遺産として、再び注目を集めている。
Data
帰属連邦州 | ザクセン=アンハルト州 |
人口 | 21,909人(2007年) |
有名なお祭り | ヴァルプルギスの夜(4月30日) |
お土産 | 様々な魔女グッズ |
近郊の観光スポット | ハルツ山地 |
郵便番号 | 06484 |
おすすめ度 | ☆☆☆ |
キャッチフレーズ | 壊れかけの美しき世界遺産 |
公式サイト | www.quedlinburg.de |
Map
ドイツ中央部に膨らむ標高1000m程のハルツ山地の北東の麓にあり、標高は平均で123mほどとなっている。西約25kmにはヴェルニゲローデ、北東約45kmには州都マグデブルクがある。旧市街で見ると全体的に平坦ではあるが、南西にはクヴェトリンブルク城が聳える丘がある。
Access
■ ハノーファーからREとHEXで約2時間半
(ハルバーシュタットで乗換)
■ ヴェルニゲローデからHEXで約50分
(ハルバーシュタットで乗換)
■ ベルリンからREとHEXで約3時間10分
(マグデブルクで乗換)
■ マグデブルクからHEXで約1時間15分
ザクセンアンハルト、ザクセン、チューリンゲンチケットのいずれかを利用すれば、週末と平日9時以降は、普通電車(RE/RB/HEX)とバスであれば、5人まで有効で28ユーロで前述の3州内は乗り放題ですので大変お得です!1人でも19ユーロです。
枯れ草に隠れた線路の間から、よろよろと1人の男が立ち上がる。そのうつろな視線の先にあるのは、砂の舞う霞んだ視界の先にある、レンガの街並み。
背後の山から吹き降りる風に、枯れ草がカサカサと乾いた音を立てている。まるで表情のない顔。ただただよろよろとした足だけが、何かに導かれるかのように動いている。
スリラーのPVで、ゾンビがよろよろと集まってきて、マイケルを囲むシーンがある。ゾンビとはいわないまでも、あのような生気の全くないひとりの男が、ただ木組みの町並みへ向かってふらふらと進んでいくのだった。
下地の露出した、赤茶けたレンガの壁。そこに絡みつくツタだけが伸び伸びと生きている。薄暮の空の下、この町にもぼんやりとした明かりが次第に灯り始める。動くもの、それは、灰色の空をうごめく砂の風、それに支配される草の海、モノトーンの世界にちょっと幸せを照らし出す瞬間の街灯の灯り、そして・・・あの不気味な男。陽も落ちかけた、カーテン越しの赤みがかった窓を睨みつける。まるで表情のなかった男に、一瞬見えた感情。
崩れかけた建物が多く残るこの町。至る所に修復もされない、見捨てられたような建造物がさらされている。それを慰めあうかののように寄り添う家々たち。綺麗に繕われた家でさえも、まるで表情を失ってしまった建物に落ち込み、町全体が悲しみに打ちひしがれている。
温かな家族を抱いた木組みの家。誰もがうらやむ様な情景を持つ家でさえも、喜びの表情は見られない。みんな、みんながなにかに取り付かれたかのように、うつむく頭をあげられないのであった。
そんな街路を、あざけるように進む影がある。暗がりの小路から、左右にふらふらと揺れる影が現れた。あの男だ。
ここは、町の中心にある広場。四方を木組みの建物に見下ろされた、なにもない空間。男は、この広場の中心にまできて、ふと辺りを見回した。
どこを背にしても、無言の家々がこっちを真顔で見つめている。さっきまでとはまるで違った、堂々たるなりを見せ付ける木組みの建物たちが、この男の弱々しい小さな体に、大きく大きく覆いかぶさってくる。右を見ても、左を見ても・・・・・・。
すると、男の顔が急にこわばった。もう耐えられなかった。何かに怯えるように、でも、それを吹き飛ばすように必死に叫んだ。気の狂った男の叫び声が、町中に駆け巡る。
何かを溜め込んでいたかのように、爆発した。どこにこんな魂があったのか、全てを放出して泣き叫ぶ男がいた。もう止めるものはなにもなかった。
すべての力を使い果たした男は、そして・・・倒れた。
辺りに夜の静けさが戻った。でも、四方の建物は眉ひとつ動かさない、倒れた男をただ真顔で見下ろしていた。そして、ツタの絡みつく市庁舎の足元では、同じ様にぴくりとも動かない、剣を掲げた石の像もこちらをじっと見つめていた。
・・・・・・
闇の町の真ん中に、燃え滾る火の海がある。広場中に詰めこまれた住人たちは、感情ひとつみせない表情で、その炎の中を見つめていた。
その中に、母親の腕の中で、父親の名を必死に叫ぶ小さな子供がいた。
聞こえぬものなどいるはずもない・・・でも、その泣き叫ぶ声に、誰一人とて情を傾けるものはいなかった。でも、それが感情を押し殺しているのだということは、そこにいるこの町の住人の誰もがわかっていた。助けたくても助けられない理由があった。見て見ぬふりをしなければならない理由があった。
そして・・・、子供の涙も枯れきった頃、その張り詰めた空気を切り裂くように、父親の断末魔の叫びが走った。そして、最期の呻き声とともに、火の海の中に消えていった・・・。
・・・・・・
・・・・・・
動きたいのに動けない
心は動くのに
拒みたいのに拒めない
非道な命なのに
巨大な力に睨まれると
人は我が身を守る
それが広場の建造物
巨大な力には逆らえぬ
己の意があろうとも
それが我々木組みの家
・・・・・・
闇の中から聞こえてくる・・・
その時男は、ふっと体が浮かび上がる感覚を覚えた。
広場が離れていく。冷たく感じた地面は、足の先に見えた。
町が離れていく。無念のクヴェトリンブルク。愛して殺された町が、足の先に見えてきた。
初めて見る夜空の下、初めて見下ろす故郷の町。町を多い尽くす瓦の屋根。
家族と歩いたあの小路、家族で登ったあの教会、家族を守ったあの瓦・・・
何百年の時を超えて、男の心には、幸せに満ちたあの記憶が蘇ってきた。
こうしてブロッケンから降りてきたのは、何百年も魘され続ける悪夢を振り払いたかったから・・・。
この忌むべき町に舞い戻ったのは、何百年も封印してきた、この町で生きた家族との記憶を取り戻したかったから・・・。
でも、やはりあのマルクト広場に立った瞬間、理不尽に焼き殺されたあの日のあの場面に、体が支配されてしまった。
炎に包まれながら最期に見たあの日のままの建造物が、眉ひとつ動かさないあの裁判の官吏に見えてしまったのだった。
今やすっかり歳をとってしまったあの木組みの家々でも、誰一人とて手を差し伸べてくれなかったあの日の住人に見えてしまったのだった。
動きたいのに動けない
心は動くのに
拒みたいのに拒めない
非道な命なのに
巨大な力に睨まれると
人は我が身を守る
それが広場の建造物
巨大な力には逆らえぬ
己の意があろうとも
それが我々木組みの家
今悟った。あの時恨んだ人間たちの心。何百年も恨み続けた、この町の住人たちの本当の心の内が見えたような気がした。と同時に、恨みや怒りは、この上ない虚しさへと変化していった。
教会という絶対権力を背後に、己を出せない、非を唱えられない、そういった人間の弱さに、激しい虚しさを感じた。そして、勇気を振り絞ることすらできない人間には、暴力をふるう権力でさえも恨む資格はない。自分がその立場だったらどうしていただろうか・・・もう、誰も恨めなくなっていた。
ようやく苦しみから解放された・・・でも、後に残ったこの虚しさは何だろうか・・・。
結局は人間の心の弱みに、あの日の非道を諦めるしかないのか・・・。
このまま消えて風となり、それで何百年もの悪夢が本当に消し去ることができるのか・・・。
本当のことを知っても、やりきれない思いが心を支配する・・・。
・・・・・・
その時不思議なことに気づいた。眼下の家並みが、揺れ動いているのだ。
あの時はピクリとも動かなかった住人。まるでその残像のように見えていた木組みの家々が、何かを訴えようとうごめいているのだ。
互いを慰めあうかのように、悲しみを振るい払うかのように。
深い悲しみにもがき苦しむように踊る。
まるで自分を拝むかのように、見上げるように。
崩れかけた建物が多く残るこの町。至る所に修復もされない、見捨てられたような建造物がさらされている。それを慰めあうかののように寄り添う家々たち。綺麗に繕われた家でさえも、まるで表情を失ってしまった建物に落ち込み、町全体が悲しみに打ちひしがれている。
この町は運命を背負っていたのか・・・。何百年経って世界遺産として輝きながらも、その陰ではこうしてもがき苦しんでいるのか・・・。
重いものを背負って、でも最初の皇帝がいた頃の栄光を取り戻そうと、こうして苦しんでいるのか・・・。
その時、思った。犠牲となった自分たちこそ、この町の指揮をとってやらなければならないのだと。
魔女裁判という悪魔の舞台、皮肉にもそれがこの町の今を支えている。
寂れてしまったこの町の幸せな顔を取り戻したい・・・あの幸せだった家族との思い出の町を・・・。
町は踊り続ける。
悲しみも、いつかは笑顔に変わる。
そう・・・ひとたび指揮を振るうものが現れると、何かから解き放たれたかのようにうごめく。
負い目を背負った人間が、許されたときのように。
否と叫ぶものがいると、それに続く者がなだれるように。
疲弊してしまってうつむく町が、元気を取り戻そうとするように。
男は剣を掲げた。
ローラント像の掲げる剣の下
揺れるクヴェトリンブルクの不思議な夜
歌うクヴェトリンブルクの不思議な夜
最後まで読んでいただいた方、本当にありがとうございます。素人の限界を痛感します。絵がないので、一層伝わりにくいかもしれませんが、メッセージはたくさん入れ込んだつもりです。もし1つでもグッと感じていただけるものがあれば嬉しいです。
また、当然ながらこの物語はフィクションです。魔女裁判などの史実などは入れていますが、詳しい場所や状況などはあくまで物語の中でのものです。それから、主人公は男ですが、魔女裁判にかけられたのは実際には女性以外にも多くいたというのも事実です。
最後にがっかりさせられた・・・という方も多いかもしれませんが、もし何かご意見をいただけましたら、是非ゲストブックの書き込みやメールをいただけたら幸いです。最後までありがとうございました!
クヴェトリンブルクの見所は、マルクト広場を中心とする世界遺産の旧市街と、それを丘から見下ろすクヴェトリンブルク城周辺です。1200軒という木組みの家々と、老朽化の目立つ町並みが、長い歴史をそのまま現しているような情景となって私たちの目に飛び込んできます。寂しげながらも輝こうとする町の姿を感じてみてください。
クヴェトリンブルク城 | 922年にハインリヒ1世の居城として建造された城。旧市街南西にある丘の上にあり、聖ゼルヴァティウス教会と並ぶようにして立っています。幾度の改築を重ねられて現在の姿になりましたが、内部は現在博物館として使われています。城内の窓からは世界遺産の旧市街を一望できますので、是非訪れてみてください。 |
聖ゼルヴァティウス教会 | クヴェトリンブルク城の傍らに建つ教会で、地下聖堂にはハインリヒ1世の棺が納められています。この教会は元々、クヴェトリンブルク城のチャペルを利用した女子修道院として使われていたこともあり、まさに城のイメージそのものだと言えます。というのも、実は旧市街から眺めたときに、一際聳え立っているのが、この聖ゼルヴァティウス教会です。内部には展示室もあり、福音書などの歴史的文化財を見ることができます。 |
木組みの家博物館 | 木組みの家博物館は、他の建造物とは一風変わった、白をベースとした建物であり、市庁舎と同じく1310年頃に建てられた歴史的建造物でもあります。ここでは、木組みの家々の柱などの構造についての解説が展示されています。 |
市庁舎とローラント像 | マルクト広場に面する市庁舎は1310年に建造されたもので、幾度かの増改築の後に現在のものへとなりました。そして、その市庁舎の正面左側にある、右手に聖剣デュランダルを天に掲げた石像が、自由の象徴ローラント像です。ローラント像といえば世界遺産にもなっているブレーメンのものが有名ですが、ここクヴェトリンブルクのローラント像も、小さいながらも中世の繁栄を現在に示しています。 |
旧市街の街並み | 1994年に世界遺産に登録され、1200軒もの歴史的建造物が立ち並んでいます。戦災を逃れたために、中世の雰囲気がそのまま現在に残されている素晴らしい街並みです。ただ、経済発展に取り残されてしまったという近代の歴史があり、老朽化して今にも崩れそうな建物も多く見かけます。天候の悪い日や冬などにこの街を訪れたら、悲しい雰囲気に包まれた町に見えてくるかもしれません。 |
物語ではかなり暗い印象を与えてしまっているかもしれませんが、暖かい季節には本当に美しい木組みの町並みが現れます。冬とそれ以外の季節の雰囲気の違いがかなり大きい町だと思います。
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